山口:テレビ番組の制作会社にてプロデューサーを経て、現在ではテレビ以外の映像制作のプロデュースやディレクターのほか、撮影から編集まで対応する業務等を行っています。プラネタリウムの上映作品のプロデューサーや、最近ですと、CG背景と俳優の演技とをその場で合成し、映像を配信するなどの新しい手法の作品の演出・ディレクターも務めました。
竹内:各種イベント企画・制作業務を主として、官公庁のイベントや業務に数多く従事しています。イベント制作などの経験は約19年で、特にここ数年は、日本や東京都の「島」に関するイベントに年間を通して関わる機会が増えてきています。
山口:島の外観調査の一環として、ドローンなどによる撮影を担当させていただきました。
竹内:令和3年度の沖ノ鳥島・南鳥島に関する情報発信に関する業務全般を実施することとなり、東京都による沖ノ鳥島の現地調査にも同行しました。現地調査では、撮影の進行管理業務を行うとともに、実際にカメラを持って撮影も行いました。
山口:まず一般の人はなかなか行くことの出来ない場所ということで貴重な体験ができるのではないかと考えました。現地調査の期間中、船上での生活がおよそ9日間続くとのことで、今までのロケでは経験したことのないことでした。
竹内:日本国内でも「沖ノ鳥島に行くことができる人」はごく少数なのではないかと、また一般的に行くことができる場所ではないため、人生で1度しか行けないだろう場所に行けることには期待と不安はありました。
山口:確実に船酔いは想定できましたので、酔い止めを日数分準備しました。着替えについては洗濯も可能とは伺っていましたが、集中して混雑することも予想されたので、下着については日数分用意しました。結果としては毎日洗濯できました。
竹内:着替えなどは10日分用意しました。また水で溶かすと飲めるコーヒーや、のど飴を多めに買い込み、酔い止め薬も用意しました。酔い止めなどは普段飲むことはないので薬局で「一番効果のある酔い止めをください。」と言って購入しました(笑)。携帯できるモバイルバッテリー(ソーラー充電式)も購入しましたが天候があまりよくなく、船室に窓もありましたが波がずっとかかり、太陽光があまり入らないので活躍の場がありませんでした。普段は持ち歩かない大型のキャリーバックいっぱいに必要品や取材用の機材、諸々を詰め込み、12月2日の乗船日、早朝に乗船し、船内を散策した時に洗濯機があり自由に使用できると聞いた時には荷物の量を後悔しました。
山口:清水港から出港して、沖ノ鳥島に到着するまでに3日程を要しました。悪天候ということもあって甲板には出られないこともあり、撮影の対象物もない果てしなく続く海。海。海。進んでいるのかどうかも分からない錯覚を覚えました。
竹内:初日、清水港で朝7時に乗船してしばらくしてから出航しましたが、清水湾内にて観測機器の試運転のためにしばらく停泊することに。結局動き出したのは10時ころだったと思いますが、13ノットくらいの速度で進むため、進んでいるのか止まっているのかさえ分からず、やっと進んでいると認識できた時には後方に見える富士山が小さくなってからでした。
山口:最初は食事の間隔が早く感じ、普段規則正しい生活を送っておりませんので、ずっとお腹が一杯でした。船上での生活を平然な顔で過ごしている船員を見て、ある意味尊敬しておりました。
竹内:乗船した初日は、久しぶりに乗る船と見渡す限りの海に向かって進んでいる高揚感から興奮していました。夕方になると水平線に沈むオレンジ色の太陽が海と空を染めて、見渡す限りのサンセットビューがとても感動的でした。夜景も周りに人工的な光がなく、感じるのは船の揺れと波の音、冷たい風、そして水平線から上はすべて星空!真っ暗闇の中、目の前に広がる星を眺めるのは、暗闇の恐怖も感じながらで不思議な体験でした。
山口:業務としては撮影したものをPC上で編集するのですが、船の揺れが酷く、何かにつかまりながら編集をしたり、酔いそうになったら作業を止めて横になったりするという繰り返しでした。一度甲板に出て撮影ができるタイミングがあったのですが、揺れが凄く、機材ごと波を被ってしまいました。映像にも残っていて、今となっては良い思い出です。
竹内:パソコン作業はほぼできませんでしたね。現地に到着するまではほとんどできることがないのはわかっていましたので、仕事を往路の乗船中にしなければと思っていましたが、波に揺られながらPCで文字を見るのはとても辛く、酔ってしまい5分と画面を見続けられませんでした。一日の生活ルーティンが食事に合わせて動くようになり、朝6:30に起床し食事を採り、昼11:30にまた食事、夕方16:30にまだおなかが一杯なのにまた食事、船内で体を動かす場所もなく、移動するのは決められた船室と食堂、後方の甲板出口そしてトイレとシャワー室のみで、それ以外の行動はほぼベットの上でした。
山口:悪天候で風が強く波も高かったので、島からの距離が離れた場所でしたが、海の上に建物が浮いているように見え、とても不思議な感覚でした。道中と同じ様に限られた場所からの撮影でしたが、大学の教授、学生さんがしっかり調査を行っている様子を目の前で拝見させていただけたことはとても貴重な体験でした。我々もドローン撮影をしましたが、学生のみなさんが教授の指示の下、しっかり点呼をとって行っている様子が、学校の授業の様にしっかりされていたのは凄いなと思いました。数日間ほぼ船の中だったので、船の外に出て撮影をしたときは気分も良かったです。
竹内:「やっと着いたー!」が最初に思った事でした。山口さんもそうですが、天候があまり良くなかったこともあり、調査地点として予定していた4ポイントのうち北側は波が高いため停泊できず、沖ノ鳥島の南側の2ポイント、リーフから約900m離れた場所からの望遠観察がメインでした。到着の朝、5時にブリッジに集合してカメラを設置し、日の出前の暗闇に、時折映る沖ノ鳥島観測拠点施設の灯台の光を頼りにカメラを向けました。日の出が近づきだんだんと姿を見せ始める沖ノ鳥島。初めて見る海の上に浮かぶ沖ノ鳥島にはちょっと感動しました。
山口:イメージは変わりませんでしたが、できる限りの事をして本土に戻るというミッション。ここまで来るのは大変な事であり、容易なことではないことは実感できました。
竹内:沖ノ鳥島に「着いた」と言っても、カメラのファインダー越しに見る沖ノ鳥島がメインだったので、到着前とのイメージはあまり変わりませんでした。往路に約3日、復路に約4日・・・行くのが大変な距離ですね。
山口:過去に多くのロケを行ってきましたが、船上での長い生活は初めてでした。また、インターネットの様な外部の情報や連絡が取れない状況が、行ったからこそ得られた経験でした。自分ではこのような環境にはなかなかなりません。以外と慣れると生活できるものなのだと感じました。仕事においてはもちろん必要なツールですが、普段の生活においては実はそんなに必要じゃないニュースやオススメ情報のメール。そういったものから遮断されたのは新鮮でした。もちろん電波が繋がり、LINEのメッセージ、電話が鳴るというのは、ホッとした瞬間です。
竹内:今までイベント制作の仕事でいろんな事をしてきましたが、ネットがつながって、いつでもどこでも何時でも、連絡が取れなければならないという状況が普通だったため、長期間「船」に乗ってインターネットの繋がらない、何も情報が入ってこない状況になる事なんて逆に無かったことで人生初の経験でした。調査員の一員として、調査船に同乗するという仕事は、その時ネットには繋がっていなくて情報から取り残されていると思っていても、実は、誰かのために、何かのために「繋がっている」のだと。これからもそんな仕事ができるようにしていきたいと思いました。
山口:日本の最南端である沖ノ鳥島。決して気軽に行ける場所ではありません。しかし、無くてはならないかけがえのない島。想像以上に多くの人たちが関わり、そして、協力して今の沖ノ鳥島を知ることができる。まだまだ知らない事もあり、これから分かってくることもきっとあると思います。
・沖ノ鳥島がどこにあるのか
・どのような役割を果たしているのか
・なぜ注目されているのか
・じつは東京都
少なくても知っておく必要があるのではないかと思います。
竹内:遥か遠く1700㎞、日本の本州がすっぽり入ってしまうほどの距離、離れた場所に在る東京都の「沖ノ鳥島」。ここは地図と同様に日本の片隅に在って、人の心の片隅にも位置している場所なんじゃないかと思います。日本にとってとても重要な島。その重要性について、私たちの日常生活の中で直接的な利益や財産などに繋がっていることをすぐに実感することは難しいのかもしれませんが、ここも、こここそが「日本の島」「東京都の島」なんだと認識していることが重要なのではないかと感じました。