東京海洋大学練習船 神鷹丸
三等航海士
鶴田美雪 様
※取材日:2026(令和8)年6月2日

鶴田 美雪 様

    ◆経歴について

  • Q.ご自身の経歴について教えてください。

    A.長崎出身で離島が多い地域で育ちました。本土から島へ渡る船を利用する機会もあり、その時に「船に乗るのは面白い!」と感じ、漠然と船に関わる仕事に興味を持つようになりました。進学先を検討する際には、当初、船に関して専門性の高い大学も考えましたが、最終的に地元の長崎大学水産学部を選びました。 大学入学後、長崎大学水産学部で必要な単位を修得し、卒業後に東京海洋大学の専攻科で必要な単位を修得すれば、航海士の資格を取得できることを知り、本格的に航海士を目指すようになりました。就職にあたっては、当初から大学の練習船に乗りたいという思いがありましたが、募集が無かったため、 一旦別の職場に勤務し、航海士としての経験を積みながらその機会を待つことにしました。その後、東京海洋大学の練習船の乗組員募集を見つけ、すぐに応募して採用され現在に至っています。

  • 「神鷹丸」講義室内にて
    〈「神鷹丸」講義室内にて〉
    Q.航海士になる前と後で、「海」に対するイメージは変わりましたか。具体的な経験があれば教えてください。

    A.航海士になる前は綺麗で穏やかなイメージが中心でしたが、実際に仕事で海に出ると穏やかなだけではなく「さまざまな顔を持つ存在」として捉えるようになりました。航海士として航行や安全管理といった側面にも意識が向くようになり、海に対する理解がより現実的かつ多角的なものへと深まりました。

    「神鷹丸」講義室内にて
    〈「神鷹丸」講義室内にて〉
  • Q.家族や友人に仕事内容を説明する際はどのような反応が多いですか。印象的なエピソードがあれば教えてください。

    A.地元の長崎では海に関わる仕事が身近なこともあり、比較的すんなり理解してもらえますが、東京の友人からは「航海士って何をしているの?」と聞かれることがよくあります。友人がイメージしやすいよう「船を運転する仕事」とシンプルに伝えると、「すごい!」と驚かれることが多いですね。

    ◆仕事内容について

  • Q.練習船「神鷹丸」について教えてください。

    A.練習船は「教育・研究・調査」を目的とした船で、神鷹丸は主に3つの役割を持っています。 1つ目は、漁業実習の実施です。トロールや延縄(はえなわ)、イカ釣りなどを実施します。 2つ目は、航海士を目指す学生の教育です。船内の講義や実際の設備を使った実習など、海技士取得のための教育を行います。 3つ目は、海洋観測や調査の実施です。研究者が乗船し、対象海域の海洋環境などを調査します。

  • 「神鷹丸」後方甲板
    〈「神鷹丸」後方甲板〉
    Q.三等航海士としての主な業務内容と、1日の流れについて具体的に教えてください。

    A.主な業務は航海中の当直です。当直では、他船と衝突しないよう見張りを行うほか、ブリッジ(操舵室)で周囲の安全を確認しながら、船が正しいルートを航行できるよう操船を行います。また、海洋観測時には観測地点での操船や位置維持も担当します。 勤務は4時間ごとの交代制(三直制)で、「4時間勤務→8時間休憩」を繰り返すサイクルです。生活例としては、夜中0時〜4時に勤務し、朝方に就寝、日中に再度勤務するような独特な生活リズムになります。不規則な生活ではありますが、次第に慣れていきます。 ただ、長期航海を終えて陸に戻った直後は時差ボケのような感覚になることもありますね(笑)

  • Q.初めて乗船する学生はどのような点に驚くことが多いですか。また、実習を通じてどのような成長が見られますか。

    A.まず、「思っていたより普通に生活できる!」という点に驚く学生が多いです。船内には個室やシャワーのほか、洗濯機・乾燥機などが整っており、想像していたより環境が良いと感じるようです。食事についても専門の担当者が船内で調理するため、普段の生活よりもバランスの取れた食事をとることができます。 一方で、沖合に出たら電波が届かないため、インターネットが使用できないことに戸惑う学生もいます。ただ、逆にそれがいいと感じる学生もおり、反応は本当に人それぞれです。 また、航海中は集団行動が基本となるため、他人に迷惑をかけない振る舞いや困った時には助け合う姿勢が自然と身についていきます。そのため、実習を通して、学生の協調性や周囲への気配りといった対人スキルが向上していくのを感じています。

    「神鷹丸」後方甲板
    〈「神鷹丸」後方甲板〉

    ◆個人・職場について

  • Q.長期航海中の船内ではどのように過ごされていますか。船内生活の楽しみを教えてください。

    A.船内生活における大きな楽しみの1つは「食事」です。航海中はインターネットが使えず外部の情報が入ってこないため、自然と食事の話題がコミュニケーションの中心になります。神鷹丸では毎日の食事に加え、土用の丑の日のうなぎや、節分の恵方巻など、季節感のある食事も提供されます。どれもおいしく、食事の時間が待ち遠しいです。 また、休憩時間には、出航前にダウンロードしておいた動画を見たり、本を読んだりと基本的にリラックスして過ごしています。運動不足になりがちな環境ですが、デッキで散歩をしている人もいて、私自身も気が向いたときに軽く筋トレをすることもあります。

  • 実習中に延縄操業で獲れたマグロ
    〈実習中に延縄操業で獲れたマグロ〉
    Q.これまでの航海の中で、特に印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。

    A.航海中のマグロ延縄実習で、マグロを捕り、その場で解体した場面が特に印象に残っています。命をいただく瞬間を目の当たりにしたことで、食べ物に対する意識が大きく変わりました。 また、船酔いも大変だった記憶として私の中に残っています。長期間乗船していると体が次第に慣れてきて、船酔いしにくくなるのですが、数か月船を離れたあと、久しぶりに乗船したときは酔ってしまうことがあります。今も船に乗ってない期間が長くなっているので、今度、房総方面に航海に出るのが少し不安な部分もあります。(苦笑)

    実習中に延縄操業で獲れたマグロ
    〈実習中に延縄操業で獲れたマグロ〉
  • Q.長期航海を終えて陸に戻った際、最初にすることは何ですか。その理由もあれば教えてください。

    A.甘いものが好きなので、陸に戻ったらまずコンビニでスイーツを買うことが多いですね。船内では生クリームのような日持ちしないものは食べられないので、どうしても恋しくなります。あとはカフェに行ってゆっくりスイーツを楽しんだりすることもあります。ちなみに船ではアイスを出してくれるので、これから暑くなる時期は楽しみの一つです。

    ◆沖ノ鳥島について

  • 沖ノ鳥島近海での漁業調査の様子
    〈沖ノ鳥島近海での漁業調査の様子〉
    Q.昨年の沖ノ鳥島周辺海域での航海では、どのような実習が行われたのか教えてください。

    A.実習内容は、学年によって異なります。大学3年生は初めての乗船となるため、基礎的な船内業務が中心です。主な内容は航海中の当直(見張り)や航海記録の作成などとなります。大学4年生になると、実習はより本格的な内容となり、操船など実務に近い業務にも取り組みます。 また、沖ノ鳥島周辺海域ではイカ釣りを行いその成果をもとに生態調査を実施しました。

    沖ノ鳥島近海での漁業調査の様子
    〈沖ノ鳥島近海での漁業調査の様子〉
  • Q.沖ノ鳥島を実際に見てどのように感じましたか。また、航海士の視点から見た沖ノ鳥島の重要性や魅力について教えてください。

    A.広い海の上に突然建造物が現れ、沖ノ鳥島だと認識したときはびっくりしましたが、島の周辺を航海しているうちに、この場所も日本であることの実感が湧いてきました。航海士としては、他の陸地から遠く離れた場所に位置する沖ノ鳥島は、灯台のような目印として重要な存在であると思います。 ただ、周囲がサンゴ礁に囲まれており、航行には非常に慎重さが求められるため、気の抜けない場所でもあります。

    ◆最後に

  • 「神鷹丸」ブリッジ(操舵室)内にて
    〈「神鷹丸」ブリッジ(操舵室)内にて〉
    Q.最後に、都民の皆さまへメッセージをお願いいたします。

    A.沖ノ鳥島は、多くの方にとって教科書で見るだけの遠い存在かもしれませんが、日本の広大な海域を支えている非常に重要な場所です。昨年、私は実習航海で沖ノ鳥島を実際に目にして、小さな島の持つ大きな役割を肌で感じました。この経験はこれまで航海士をやってきた中でも印象に残る出来事のひとつとなりました。 航海士という仕事はまだ認知度が高いとは言えませんが、インタビューをご覧になった方が「世の中にはこういう仕事もある」と知ってもらえるだけでも大きな意義があると考えています。特に子どもたちにとって、将来の選択肢のひとつとして、少しでも興味を持ってもらえるきっかけになれば嬉しいですね。

    「神鷹丸」ブリッジ(操舵室)内にて
    〈「神鷹丸」ブリッジ(操舵室)内にて〉

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