A.次世代海洋資源研究センターは、深海に分布するレアアース泥やマンガンノジュールといった海底鉱物資源の探査・発見・開発・実用化によって、人類と地球が調和する次世代社会の創成を目指し、2017(平成29)年に設立されました。海底鉱物資源は日本の経済や産業の発展に不可欠なレアメタルやレアアースの新たな供給源として、今後重要となる資源です。しかしながら、日本では専門的に研究する機関や研究者が少ない分野です。本センターは、そのような次代を担う海洋資源の研究拠点として、最先端の地球科学的アプローチを駆使して研究開発を展開しています。
A.一つの重要な柱として、海底鉱物資源の生成メカニズムを解明するための研究を行っています。海底鉱物資源の探査には膨大な労力がかかりますが、鉱物がいつ、どこで、どのようにして生まれたかを知ることで、経済的に価値の高い有望な資源が今どこにあるのかを理論的に予測できるようになり、精度が高くかつ効率的な探査が可能となります。現在、特に力を入れているのは「レアアース泥」と「マンガンノジュール」の研究です。
レアアース泥は、私を筆頭とする東京大学の研究チームが2011年に発見した新しいタイプの海底鉱物資源です。電気自動車のモーターや風力発電機などの低炭素技術に必須となるレアアースの濃度が400 ppmを超える深海堆積物のことを指しますが、2013年には日本の排他的経済水域である南鳥島周辺海域で7,000ppmを超える極めて高品位の「超高濃度レアアース泥」も発見しました。そして、私たちの研究の結果、この超高濃度レアアース泥の形成には約3,400万年前の地球の寒冷化が深く関係していることがわかりました。南極氷床の発達に伴って、海洋の深層循環が活発化し、栄養塩が湧昇して魚類が増えました。魚類の歯や骨はレアアースを濃集する性質があります。そのため、魚類が増えてその骨片が海底に大量に降り積もった結果、それらが海水からレアアースを取り込み、レアアースを豊富に含む堆積物が形成されたと考えられます。これは、海底鉱物資源が地球環境のダイナミックな変化と密接に関係していることを世界で初めて示したという点で、重要な意味を持っています。
一方、マンガンノジュールは、深海底に分布する球状の海底鉱物資源で、リチウムイオン電池の正極材に使われるコバルトやニッケルを多く含みます。私を筆頭とする東京大学の研究チームは2016年に南鳥島周辺の海底にも広大なマンガンノジュールフィールドが分布していることを発見し、現在日本財団と共同でその開発に向けた取組みを実施しています。マンガンノジュールには過去の海洋環境の変動に関する情報が蓄積されており、現在、形成された年代を特定するための分析を行っています。分析が進めば、地球の環境変動とレアメタル資源の生成の重要なリンクを解明する新たな手がかりを得ることができると考えています。
このように、海洋資源の研究は、世界的に増大するレアメタル需要に対する新たな供給源の確保に留まらず、地球環境の変動史の理解にも貢献する重要な分野です。私たちは、この研究を通じて、持続可能な資源利用と環境問題への対応策を探求していきます。
A.私たちはレアアース泥を深海から採取することさえできれば、その後の製錬など実用化に至るまでの一連の流れは既存技術で構築できると考えています。そのことを示すため、今回、様々な企業に協力いただきながら、実際に南鳥島海域で採取したレアアース泥から精製したレアアースを用いて「南鳥島の光」を製作しました。
A.レアアース泥からLEDを製作するまでには、①泥からのレアアースの抽出と混合レアアース酸化物の回収、②レアアースの分離(イットリウム、セリウムの精製)、③白色LEDの作成の3つの工程があります。まず、希釈した塩酸にレアアース泥を浸してレアアースを抽出し、カラム分離という方法でレアアースの混合物とその他の元素を分離します。次に、イオン交換によりレアアースを個別に分離し、イットリウムとセリウムを精製します。最後に、精製したイットリウムとセリウムを用いて白色LEDを作成します。
17種類のレアアース元素の混合物である混合レアアース酸化物から、各元素を個別に分離するのは難しい工程であり、日本企業の技術の高さが示されています。
A.来場いただいた方々は「南鳥島の光」の展示を興味深くご覧になっており、『レアアースはどうやって取り出すのか』『どのように活用するのか』といった具体的な質問が寄せられることもあります。「南鳥島の光」は東京スカイツリータウン®キャンパスのほか、千葉工業大学と東京大学大学院工学系研究科が共同で設立した鉱物資源フロンティアミュージアム「ミネラフロント」(東京大学工学部3号館)でも展示されています(2025(令和7)年1月現在)。
A.東京都の一部である南鳥島について、都民の皆様にぜひ関心を持っていただきたいと思います。東京都には、世界を変えうる素晴らしい資源が存在しています。その価値を多くの方に知っていただき、誇りに感じてもらえればと思います。私たちは、この資源の開発を実現し、実社会での活用を促進することで、東京都はもちろん、日本全体の活性化につなげたいと考えています。皆様にもぜひ応援していただければ嬉しい限りです。