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海上保安庁 海洋情報部
※寄稿日:2023(令和5)年6月22日

    ◆海上保安庁について

  • Q.海上保安庁には、どのようなお仕事があるのか、教えていただけますでしょうか。

    A.広大な海で四面を囲まれた海洋国家である我が国は、貿易や漁業により恵みを得る一方、海難や密輸・密航といった海上犯罪、そして領土や海洋資源の帰属について国家間の主権主張の場となるなど、海上においてさまざまな事案に直面しています。海上保安庁は昭和23年5月に発足し、以来、国民が安心して海を利用し、さまざまな恩恵を享受できるよう関係国との連携・協力関係の強化を図りつつ、海上における犯罪の取締り、領海警備、海難救助、環境保全、災害対応、海洋調査、船舶の航行安全等の活動に日夜従事しています。

  • Q.海洋調査では、どのような手段を使って調査を行っているのでしょうか。

    A.四方を海に囲まれた我が国にとって、領海や排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、その基礎となる海洋情報の整備は不可欠です。海上保安庁は日本周辺海域において、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や自律型潜水調査機器(AUV)等による海底地形調査、地殻構造調査や底質調査等を重点的に推進するとともに、自律型海洋観測装置(AOV)や航空機に搭載した航空レーザー測深機により、領海やEEZの外縁の根拠となる低潮線の調査を実施しています。

    ◆まるでゴジラ!?ゴジラメガムリオン地形区

  • Q.沖ノ鳥島周辺で発見された海底地形が、ゴジラメガムリオン地形区と命名されたことが話題になりましたが、ゴジラメガムリオン地形区とはどのようなものなのでしょうか。

    A.1983年から2008年にかけて実施された日本政府の大陸棚画定調査によって、フィリピン海プレートの地質学的・地球物理学的な構造等についての詳しい理解が、我が国を中心とした世界的な研究者たちにより広がりました。このうち、特に顕著な海底地形として、東京の南方約2000km、沖ノ鳥島の南東約600kmの海底で2001年に発見された海底地形が、ゴジラメガムリオン地形区です。
    メガムリオンとは、海底拡大に伴う大規模な正断層が発達し、その断層運動に伴い表面に下部地殻物質やマントル物質などが露出しているドーム状の高まりを呈する地形であり、海洋コアコンプレックスとも呼ばれます。メガムリオンは、その表面に海底拡大方向に平行な畝状の構造を持つことが最大の特徴です。なおムリオンは日本語では方立と呼ばれる建築用語で、窓を縦方向に支える部材を呼びます。
    ゴジラメガムリオン地形区周辺の海底は、北東-南西方向に拡大しており、大部分が、玄武岩マグマの噴出による海底拡大で形作られた、海底拡大方向に直交する地形構造を有しています。これは、マグマの噴出により形成された地形構造が、その後の海底拡大とともに遠方に移動していくためです。しかし、ゴジラメガムリオン地形区は、海底拡大に伴う断層運動に伴い表面に下部地殻物質やマントル物質などが露出することにより形成されたドーム状の地形であり、海底拡大方向に平行する畝状の構造で特徴づけられる特異な存在となっています。更に、ゴジラメガムリオン地形区は約125 km ×約 55 kmという東京都面積の約3倍と非常に広く、他のメガムリオンの約10倍にもなり、地球上で確認された最大のメガムリオンです。
    こうした特徴的な海底地形を有するエリアがゴジラメガムリオン地形区になります。

  • Q.どのような経緯でこの名称になったのですか。

    A.ゴジラメガムリオン地形区は、海洋科学において非常に重要な研究対象であり、日本を中心とする国際的研究グループによる調査の結果、フィリピン海プレートの組成・構造に関する重要な研究成果が得られているなど、地球環境変動や地球内部構造等の解明に極めて重要であると考えられています。この非常に巨大で極めて特徴的な海底地形を研究する研究者の間で、その巨大さから、世界的に有名な東宝の映画の主要なキャラクターで、海底にいると考えられる巨大怪獣「ゴジラ」に因んで名付けられました。その後、多くの国際論文で使用されるなど名称が広く使用されるようになりました。
    近年、海底地形調査技術の向上により、多くの海底地形が見つけられるようになりました。前述の大陸棚画定調査でも最新の調査機器を使用して進められました。他方で、海底地形をそれぞれが勝手に名前をつけて呼ぶことによる懸念が出てきました。同じ海底地形を別々の名称で呼んだり、別々の海底地形を同じような名称で呼んだりすることで、混乱を生じることになるためです。その解決のため、海底地形名についてのガイドライン( IHO-IOC刊行物B-6「海底地形名標準」)に従って命名し、広く普及を図っていく必要があります。
    海上保安庁では、こうして明らかになった海底地形について、1966年から、海洋調査機関や関係学会等の有識者を招いて、「海底地名打合せ会」を開催し海底地形名の命名を行っています。2001年からは「海底地形の名称に関する検討会(JCUFN)」と発展的改称を行い、学識経験者(地理学、海洋底地球科学の専門家)及び関係機関(水産庁、産業技術総合研究所、海洋研究開発機構)に委員として参加していただき、海底地形名を検討いただいています。そして、JCUFNで決定された海底地形名が、国際的にも広く使用されるよう、海底地形名を国際的に標準化するために国際水路機関(IHO)とユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)の下に設置されている「海底地形名小委員会(SCUFN:Sub-Committee on Undersea Feature Names)」に提案を行っています。
    ゴジラメガムリオン地形区も、JCUFNで検討承認いただいた後、2021年にSCUFNに提案し、審査の上、ゴジラメガムリオン地形区として承認されました。そして、ゴジラメガムリオン地形区をゴジラの身体に見立て、ゴジラメガムリオン地形区上の特徴的な海底地形に、頭(ヘッド)、腕(アーム)、尾(テール)等のゴジラの身体の部位の名前を付与したところ、同様にSCUFNで承認されました。登録に際しては、事前に映画会社の東宝に了承いただくことで、海底にゴジラを冠した海底地形名が生まれることとなりました。世界に分布するメガムリオンの中で、名称が国際的に登録されたのは、このゴジラメガムリオン地形区が初めてです。

  • Q.ゴジラメガムリオン地形区の調査によって、期待される成果について教えてください。

    A.ゴジラメガムリオン地形区の全面に、下部地殻物質であるはんれい岩や上部マントル物質であるかんらん岩が露出しており、その物質科学的情報は、フィリピン海プレートの組成・構造に関する重要な知見を与えており、我々が地球の進化を知る極めて重要な研究対象になっています。そうした海底地形に、世界的に有名な映画キャラクターの「ゴジラ」の名前が付けられたことで、ゴジラメガムリオン地形区が海底にある巨大で特殊な海底地形であること、我々が住む地球をよりよく知る上で重要な対象であることなどを広く一般の方にも関心をもって知っていただけることが期待されています。また、ゴジラは国際的にも非常に有名なキャラクターであり、国内のみならず国際的にもより広く使用されていくことが期待されています。

    ◆沖ノ鳥島・南鳥島のような遠隔離島における海洋調査について

  • Q.令和3(2021)年には、南鳥島の土台となった玄武岩が初めて採取されて、年代を測定したところ1 億年以上前にできた火山島が約 4000 万年前に再活動していたことが判明したとのこと。海上保安庁の方も研究グループに参加されていたとのことですが、この調査について教えていただけますでしょうか。

    A.本件は、海上保安庁による2008年までの海洋調査で明らかになった南鳥島周辺の詳しい海底地形データがきっかけになって、大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者と共同で行った研究調査です。2010年にJAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」を用いて、南鳥島の北西側斜面の潜航調査を水深3400mで行い、初めて島の土台を成す玄武岩の採取に成功しました。
     南鳥島は、その周囲1000㎞以内に陸地がない絶海の孤島です。深海底からそびえる高さ5000m超の海山の頂部だけが海面上に顔を出し、陸地となっています。南鳥島は、その周囲にある多数の海山群と同様に1億数千万年前(白亜紀)の火山活動でできたと考えられていましたが、火山であることを証拠づける玄武岩が採取されていませんでした。この2010年に初めて採取された玄武岩の年代によって、南鳥島は4000万年前に火山として再活動したことが判明しました。これは、「なぜ南鳥島だけが島として存在しているのか」という謎を解き明かすヒントにもなる成果です。

    ◆最後に

  • Q.都民の皆さまにメッセージをお願いします。

    A.海上保安庁海洋情報部は、今後も、最新の海洋調査技術を駆使して計画的に効率的な海洋調査を推進するとともに、取得した海洋情報を適切に管理し、社会に役立つ海洋情報の提供を充実させてまいります。


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