A.私は東京都立大学理学部地理学科の気候学研究室にて気候学を専攻し、その後筑波大学大学院へ進み気候学・気象学研究室でさらに学びを深めて、修士を取得しました。学位(博士号)を取得する前に就職し、同じつくば市にある国立環境研究所に半年間在籍して黄砂について研究していました。様々なご縁があってJAMSTEC(海洋研究開発機構)に入ったところ、専門外の海洋物理学に関わる仕事をすることになり、海洋研究の勉強を始めました。その後2015(平成27)年に社会人学生として北海道大学大学院水産科学院後期課程に入学し、2017(平成29)年に同課程を修了し博士(水産科学)を取得しました。
A.2003(平成15)年1月、当時のNASDA(宇宙開発事業団)とJAMSTECが共同出資していた地球フロンティア研究システムへ採用となったのがきっかけです。JAMSTECに入ったというよりも、NASDAが地球フロンティア研究システムから退いたことでJAMSTECの所属となったという方が正確かもしれません。こういった経緯から現在もJAMSTECの横浜研究所に在籍し、2022(令和4)年12月で20年となります。元々は気象学を専門に学んでいましたが、海洋物理学の部門のメンバーとして地球フロンティア研究システムに入り、少しずつ海洋水産学の研究にシフトしていき、現在は海洋水産学を専門に研究しています。
A.JAMSTECは幅広い研究分野・技術をカバーしています。その中でJAMSTECの中核を担っているのは、航海に出て海洋・生物等を観測することによる研究です。実際にその場所に行って観測してくるという研究において、JAMSTECは重要な部分を担っています。近年でも海洋からは新種の生物が発見されており、現在もまだ知られていない生物がいると考えれば、今後の研究にも非常に意義があります。そういったことからも、海洋観測に携わる部門はJAMSTECのメインの1つと捉えられます。また、様々な実験や分析を通じて、研究の理論的部分の構築・仮説検証を行うことでより確実性を高めていく部門もあります。さらに、そこで完成した理論や観測結果を再現できるよう数値化し、過去に観測できなかった場所での状態推定や将来の予測を可能にするのが付加価値情報創生部門です。ここで創生した付加価値情報を社会へ発信し役立てていくことが重要な役割だと思います。私が所属する地球情報科学技術センター データ統融合解析グループでは、元々は異なった分野で使われているデータを統融合することで新しい価値を生み出すことをメインに研究をしています。例えば、海洋の水温や塩分、流速などの海洋物理環境のデータセットと漁獲データを統合することで漁場推定を行っています。
A.現在、付加価値情報創生部門では『四次元仮想地球の構築』として、バーチャル空間での地球環境の再現と予測をテーマに掲げています。そのテーマ内には海洋生物の分布推定や予測も含まれていて、社会に役立つ情報を創生しています。私自身も過去に北太平洋のアカイカやカツオなど、漁場推定をメインテーマに研究を進めてきたところです。こういった経緯もあり東京都の公募を知った際、漁場分布推定を行うことで今後東京都に価値のある情報創生ができるかもしれないと考えた次第です。さらに東京都島しょ農林水産総合センターという水産に関わる研究所と連携して仕事が行えることも今回手を挙げた理由の一つになります。
A.今回研究対象となる魚種は東京都の重要魚種でもあるカツオとキンメダイです。私たちの海洋環境データと統合解析し、漁場推定を行うことができる数理モデルを開発することが大きな目標となっています。1年目はカツオ・キンメダイそれぞれのファーストプロダクトとして、たたき台となるテストモデルを、現時点で収集した情報を基に開発します。 そして、このテストモデルでどの程度推定できるかについての評価を1年目で行っていきます。この1年目の結果を踏まえた上で、2年目・3年目は出来上がったモデルをどのように改良して精度を向上させるかを考えていきます。加えてカツオやキンメダイがどのような環境を好んでおり、その結果として漁場が形成されているのかについて生物学的な特徴から明らかにしていく予定です。基本的に2~3年目は改良のフェーズと考えていますが、将来的には開発したものを何らかの形で東京都に提供できると考えています。そのため、3年目は実際の利用者とのインタラクティブな検証を行い、モデルの精度を高めていきたいと考えています。
A.1つ目は漁業者へ向けて、効率的な漁業ができるような仕組みの構築につながる情報の創生をしたいと考えています。探索漁業のコストの大半は漁船の燃油消費ですが、効率的に漁業を行うことができれば燃油のコストを抑えられ経営効率が向上し、計画的に魚が捕獲できるようになれば漁業管理にも役立ちます。さらに、コストと捕獲量の見通しが立つことで漁業者の労働時間の短縮など、労働環境も含めQOLの改善が期待できます。2つ目は捕獲量についてです。捕獲できるからといって獲りすぎると、もちろん魚はいなくなってしまいます。そういった状況を避けるためには、管理が必要になります。例えば、「どの程度の資源水準があるか」「どこに行くと捕獲できるか」「捕獲環境は年によってどう変わるか」など、ある程度の推測ができることで漁業管理の情報としても有効になってきます。最終的にはサスティナブルな業務の展開にも役立つ情報として、行政管理側の情報へつなげていく効果も期待しています。3つ目ですが、この部分が沖ノ鳥島・南鳥島では一番重要な部分になります。直接現場に行って観測することが困難な場所に存在する生物を、どのように管理するかは現在も大きな課題です。そこで数値モデルを利用して、現地調査の頻度が少なくても効率的・効果的に管理できる仕組みを構築することで、遠くにある排他的経済水域の管理にも活用できる情報が創出できるのではないかと考えています。実際に沖ノ鳥島・南鳥島まで漁業へ行く事業者は東京都にはあまりいないそうです。だからこそ、漁業が行われない場所の資源を管理するという点では非常に重要な情報です。すなわち、排他的経済水域の保全・管理に役立てるモデルを構築することが3つ目の期待される効果であると考えています。
A.私たちは海洋環境データについて、ある程度精緻なものを作成できる技術を持っていますが、魚のデータはあまり持ち合わせていません。そのため、常に魚の分布情報が足りない状況でモデル作成を行っており、いつでも正確に漁場の予測ができるわけではないのがこの研究の難しいところです。過去にも10年ぐらいの予測をしたときに、必ず1年か2年推定結果と実際の漁場位置が整合しない年が出てきてしまうようなモデルにならざるを得ないことがあり、その部分をどのようにしていくかという技術も非常に大事と考えて、リアルタイムのデータを活かしつつ、現況に合った情報に作り変える技術を開発しています。また、検証自体が困難であることも難しい点であると感じています。遊泳能力が高く、自分の好きなところに行くことができる魚は、モデルについても比較的良い結果が出やすいですが、漁獲量が漁場の環境だけで決まっていない場合に、漁場環境以外の要因をいかにモデルに組み入れていくかを考える必要があります。「期待したほど当たらなかった」と利用者に失望されないよう試行錯誤を重ねている分、「非常に良かった」という声がもらえるとやりがいを感じます。沖ノ鳥島・南鳥島付近の漁場環境を正確に抽出した形での研究成果を上げていきたい、さらには業者の方々や東京都民の方々に少しでも喜んでもらえる情報創生につなげていきたいと思っています。
A.東京都を中心に漁業従事者の方々や都民の皆さんに美味しい魚を持続的に獲っていただきたい、食べていただきたいという思いで日々研究を続けています。そのためにも、適切な漁場管理につながる情報創生を目指していきますので、今後も叱咤激励をいただきながらも温かく見守っていただけたらと思います。